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名古屋地方裁判所 昭和55年(ワ)1629号 判決

原告 佐藤一好

右訴訟代理人弁護士 立岡亘

後藤昭樹

太田博之

被告 加藤元株式会社

右代表者清算人 加藤元三

右特別代理人弁護士 奥村義雄

主文

一、被告は、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について別紙登記目録記載の根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、(当事者の求めた裁判)

一、原告の請求の趣旨

主文と同旨。

二、請求の趣旨に対する被告の答弁

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

第二、(当事者の主張)

一、原告の請求原因

1.原告は、昭和四五年九月二二日、別紙物件目録(一)記載の土地(以下、本件土地という。)の所有者であった訴外山田清五郎(以下、訴外清五郎という。)から本件土地を買受けた。

2.被告は、本件土地について別紙登記目録記載の根抵当権設定登記(以下、本件根抵当権設定登記という。)を有している。

3.よって原告は被告に対し、所有権に基づき、本件根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。

二、請求原因に対する被告の認否

請求原因1項の事実は不知。同2項の事実は認める。

三、被告の抗弁

被告は、訴外清五郎との間の昭和三一年七月一〇日付手形貸付、手形割引契約に基づく被告の同訴外人に対する債権を担保するため、同訴外人の所有する本件土地について本件根抵当権を設定し、これを原因とする設定登記の手続を了したものである。

四、抗弁に対する原告の認否

右抗弁事実は認める。

五、原告の再抗弁

1.(一)昭和三三年二月ないし三月頃、訴外清五郎は、手形の不渡りを出したことにより銀行取引停止処分をうけたため、被告が、それ以後同訴外人の手形債権を取得する見込はないので、被告と右訴外人間において手形取引がなされる見込はなく不渡を生じさせた債務者に対し、新たな信用供与行為を行うとは一般取引の常識に照らし通常考えられないので、その頃に本件根抵当権の元本債権は確定した。或はまた、前記手形貸付、手形割引契約(以下、本件取引という。)は黙示の合意解約により終了し、右元本債権は確定した。

(二)右元本の確定時に存した被担保債権については、訴外山田俊雄(以下、訴外俊雄という。)所有の別紙物件目録(二)記載の物件中(ア)の物件について訴外俊雄から被告会社に移転した後、訴外株式会社吉田商店(以下、訴外吉田商店という。)に売却し、また、(イ)・(ウ)の各物件について訴外俊雄から直接訴外吉田商店に売却し、右売却代金の合計金四七万八六〇〇円を昭和三三年八月一一日に右債権の弁済に供した。

2.(一)仮に右再抗弁1(一)の時点において元本債権の確定がないとしても、被告がいわゆる倒産に瀕した昭和三九年頃から昭和四〇年頃にかけて本件取引が終了し、元本債権が右時点において確定した(昭和三九年九月和議申立、同年一二月二四日和議開始、昭和四〇年二月二二日和議認可、同年三月二四日同決定確定)。

(二)また、被告の代表取締役加藤元三が昭和四九年三月一二日死亡し、その後、後任代表者は選任されておらず、その頃事実上被告は営業を廃止したというべく、右時点をもって本件取引は終了し元本債権は確定した。

(三)更にまた、訴外清五郎は昭和五三年七月一一日に死亡したので、取引当事者(債務者)である同訴外人の死亡により本件取引は終了し、元本債権は確定した。

(四)右(一)ないし(三)の各時点においては、本件根抵当権の被担保債権は存在していなかった。

六、再抗弁に対する被告の認否

再抗弁1(二)の事実は否認し、その余の再抗弁の各点は争う。

第三、(証拠)〈省略〉

理由

一、請求原因2項の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第八号証によると同1項の事実を認めることができる。

二、抗弁事実も当事者間に争いはない。

三、そこで原告の再抗弁について検討する。

1.再抗弁1(一)について。

ところで、根抵当権は本来被担保債権が消滅しても担保権は消滅しないことを特質とするものであるところ、根抵当権の確定により根抵当権の流動性は喪失し、担保される元本債権は、その時点に存在したものに限られることは言をまたない。そして民法が担保すべき元本が確定する一場合として規定する三九八条ノ二〇第一項一号(附則〈昭和四六年六月三日法律九九号〉二条)の「担保すべき債権の範囲の変更、取引の終了その他の事由により担保すべき元本の生ぜざることとなりたるとき」のうちの「その他の事由」は担保すべき債権の範囲の変更や取引の終了に比すべき根抵当権の流動性喪失事由を総称したものと解すべきである。

そこで、成立について争いのない甲第八号証、証人山田俊雄、同山田清二の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、訴外清五郎らは「山清メリヤス」の商号でメリヤス加工業を営み、被告会社から綿糸仕入れの取引をして、右仕入代金の支払方法として手形を振出していたが、昭和三三年二月ころ右「山清メリヤス」は不渡手形を出したため銀行取引停止処分をうけて倒産し、その後訴外清五郎らはその営業活動を停止して被告会社に対し全く手形を振出していない事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実からすると、訴外清五郎らは、右倒産時点において営業活動を停止し、商取引を止めてしまったことが明らかであるから、被告会社が本件根抵当権によって担保される訴外清五郎らに対する手形貸付並び手形割引に基づく債権を取得することはなくなったものと認め得べく、本件根抵当権につき、前示「その他の事由」に該当するものとしてその元本債権は確定したものと解するのが相当である。

2.再抗弁1(二)の事実について。

前掲各証拠と成立に争いのない甲第一号証の一ないし三、証人山田俊雄の証言により真正に成立したと認められる甲第二号証を総合すると、右事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠はない。

四、そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由があることになるから、これを認容することとし、訴訟費用につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 深田源次)

〈以下省略〉

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